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東京地方裁判所 昭和33年(タ)267号 判決

原告 長谷とよせ

被告 長谷万蔵

主文

(一)  原告と被告とを離婚する。

(二)  被告は原告に対し、金五十万円支払うべし。

(三)  訴訟費用は全部被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文「(一)(三)項同旨の判決並に被告は原告に対し金六十万円を支払うべしとの判決」を求める旨申立て、請求原因として、

一、二、省略

三、なお原告は初婚で、婚姻以来約一〇年間ひたすら夫である被告のため内助の功を尽して来たのに、前記被告の行為により、別居の止むなきに至り、現在指圧療法助手として月約四千円乃至六千円収入を得、不足分は実弟高橋豊吉から送金を受けて辛じて生活している。

他方被告は婚姻当初から証券会社の外交員をして居り現在相当の収入を得、資産として現在の住家である目黒区柿ノ木坂一六番地の木造瓦葺平家建一棟建坪約二二坪と練馬区大泉町学園町に畑三筆合計三畝二歩を所有している。以上諸般の事情を綜合して考慮すれば、原告は被告に対し、財産の分与として金四十万円を又前記離婚事由により甚大な精神的苦痛を受けたのでその慰藉料として金二十万円合計六十万円を請求する権利を有するから、その支払を求める。

と述べ、

以下省略

理由

一、成立に争のない甲第一号証(戸籍謄本)の記載と証人高橋豊吉、鈴木喜千代及び原告本人の各供述並に被告の請求原因事実に対する自認とを綜合すれば、原告主張の請求原因一、二の事実は全部之を認めるに十分である。被告は原告が家出を為し且つ別居するに至つた原因は、原告自身に在り被告に責任はない旨主張するが、婚姻後原告が子宮腔上部の切断手術を受けたことは原告の供述によつて明らかであるが、其余の点について被告の主張に添うかの如き被告本人の供述部分は、原告本人の供述に対照するときは当裁判所をして真実なりとの心証を得させることが出来ず、他に被告の主張を認める何等の証拠もないから同人の右主張は之を採用しない。前条認定の事実によれば被告の所為は民法第七七〇条一項一号に所謂不貞行為に該当し且つ夫婦関係の破綻して居ること勿論であるから原告の離婚の請求の理由あること勿論と謂わなければならない。

二、仍て原告主張の財産分与及び慰藉料の請求について考えるに、原告が昭和二一年被告と婚姻以来夫婦として昭和三二年六月迄同居して居た事実、前段認定の如き理由によつて離婚となつた事実を考えれば、被告は原告に対し相当額の財産を分与すべき義務があると共に被告の前段認定の不貞行為によつて原告の被つた精神上の苦痛に対し、慰藉料を支払う義務があることは勿論である。

原告が旧制高等女学校卒業直後看護婦として日本赤十字社に入社し、戦時中は従軍していたため稍婚期を逸し、二五歳初婚で被告と婚姻したこと、婚姻当時は被告の株式外交が不調で、生活も苦しかつたが、その後夫婦関係は円満で被告の収入も増して一時自家用自動車を有する程度になつたことと、別居後は被告からの生活費の仕送は全くなく、現在指圧療法助手として月四千円乃至六千円の収入を得不足分を実弟高橋豊吉から扶助を受けて生活していることは原告本人の供述によつて之を認めるに十分である。

他方被告が株式外交員として相当の収入があることは本件弁論の全趣旨から明らかであり、資産として原告主張の住宅及び三筆の畑地を所有することは被告の認める所である(被告は此等の資産は婚姻前から同人が所有して居たものであるから財産分与の対象乃至はその額を定める基準となり得ない旨を主張するが、財産分与をさせるべきか否かを裁判所が定める場合には夫婦が協力によつて得た財産のみならず、分与の申立について裁判を為す当時に於て斟酌し得る一切の事情を考慮すべきことは民法第七六八条三項の法意に照して明らかであるから、右主張は採用しない)。

以上原被告について夫々認定の事実並に一に於て認定した事実其他本件口頭弁論に現れた諸般の事情を斟酌して考慮すれば、被告の原告に対する財産分与の額は金三十万円慰藉料の額は原告の請求通り金二十万円を相当と認むべきである。

而して人訴法二五条によつて財産分与の裁判を為す場合もその性質は非訟事件であつて実体法上の請求権の存否を確定すべき性質のものではなく、当事者としては分与の裁判を求める申立を為せば足り、申立の趣旨として数額を特定することを要しないから、数額について申立があり、裁判所が該申立に満たない数額を認容する場合にも特に主文に於て一部棄却を言渡す必要はない。此の事は人訴法一五条乃至三項の規定の上からも之を窺うに十分である。仍て財産分与の点に付ては主文に於て一部棄却の裁判を為さない。

よつて原告の本訴請求並に財産分与の申立を理由ありと認めて之を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木忠一)

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